2022.02.26. 九条科学者の会 事務局長声明

政府の行為によって戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求することを定めた日本国憲法のもとで、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に強く抗議し、ロシア軍をただちにウクライナから撤退させ、国際法の定めに従うことなどを求める


 2022年2月24日、ロシア軍は、ウクライナに対してミサイル攻撃を開始し、また国境をこえてウクライナに軍隊を侵攻させた。この攻撃によって、ウクライナ全土では多大な被害が発生し、市民をふくむ多数の死傷者がでていると伝えられる。
 わたしたちは、かつて大日本帝国の軍隊が「日本人居留民の保護」を名目に中国に出兵したこと、ナチス・ドイツが「ドイツ系住民の保護」を名目にチェコスロヴァキアのズデーデンを暴力的に併合したこと、などの歴史的事実を知っている。プーチン大統領は、今回の軍事侵攻を「人民の保護」と述べて正当化しようとする。しかしそれは、かつての日本やドイツがおかしたのと同じ誤りを、同じロジックで取り繕おうとするものである。
 
 ロシア軍のこのような蛮行は、以下の五つの理由から、認めがたいものである。

 
 第一に、ウクライナに対する宣戦布告こそ行なわないものの、実体において、ロシアの行為は、ウクライナに対する侵略戦争である。
 それは1928年に制定され、ソ連も加盟するパリ不戦条約第1条、すなわち「締約國ハ國際紛爭解決ノ爲戰爭ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互關係ニ於テ國家ノ政策ノ手段トシテノ戰爭ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ嚴肅ニ宣言ス」において放棄された、「国家の政策の手段としての戦争」そのものである。
 またロシアの行為は、国際連合憲章で示された国際連合設立の目的、すなわち「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救」うために(前文)、「国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ」るという目的にも真っ向から反する行為である。
 すなわち、ロシアの行為は、平和な国際社会を築くために侵略戦争を違法化した、20世紀国際法の基本原則を踏みにじるものである。

 第二に、ロシアは、世界第二の核兵器保有国である。そのような核兵器大国が軍事力を行使するなかで、ロシア自身あるいはその他の国が保有する核兵器が実際に用いられる危険がある。
 このことはウクライナやロシアの民衆のみならず、全世界の民衆にとっての自由、安全、生命、持続可能な環境を脅かす。ロシアのプーチン大統領は「ロシアに介入しようとする者たちに、ロシアは即時に対応し、それは歴史上かつてないほどの帰結をもたらすだろう」と、事実上の威嚇を行っている。
 本年1月、ロシアを含む核保有国は、「核保有国5カ国のリーダーによる、核戦争を防ぎ、軍拡競争を避けることについての共同声明」において、「我々のいかなる核兵器も、お互いの国家、あるいは他の国家を標的としてものではないことを再確認する」と宣言した。いまこそロシアはその声明を思い起こし、核兵器の使用をにおわせるようなことは、絶対につつしむべきである。
 またチェルノブイリの原発施設に対してもロシア軍が侵攻し、ウクライナ当局は同施設の管理を行うことが困難になっていると伝えられる。かりに同施設の管理が適切に行われず、貯蔵してある核廃棄物が拡散するようなことがあれば、周辺諸国には再び86年の核災害が及ぶだろう。
 ロシアの軍事侵攻は、人類の存続にとってきわめて危険なものである。

 第三に、ロシアは2022年2月21日、他国に先駆けて、ロシア系住民がおおく居住するウクライナ東部二州(ドネツク州およびルガンスク州)を、それぞれ「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」として承認した。三カ国は間髪を入れず、ロシア軍に軍事基地等の建設・使用の権利を与える「友好協力相互支援協定」に署名した。

 さらにロシアは、ウクライナ首都キエフ付近に軍隊を侵攻させ、同国政府に圧力をかけている。このようなことは、ウクライナの内政に対する干渉であり、同国の国家主権を侵害するものである。このことは「人民の同権および自決の原則の尊重」、「すべての加盟国の主権平等の原則」を規定する国際連合憲章に反する。さらに全ての人民に自決の権利を保障する国際人権規約にも反するものである。ロシアは、ウクライナ人民の自決を害してはならない。

 第四に、国際連合憲章第6章は、加盟国に対して、国家間の紛争の平和的な解決をめざすことを義務づけている。ロシアは交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他の平和的手段によって、問題の解決をはからなければならない。また国際連合憲章第6章は、安全保障理事会に対して、調査、適当な調整の手続又は方法の勧告をおこなうことができる。ロシアは安全保障理事会常任理事国として、このような手法を追求しなければならない。
 また国連憲章第7章は、安全保障理事会に対して、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する権限を付与する。ロシアは安全保障理事会常任理事国として、このような手法を追求しなければならない。
 ロシアの行為は、第二次世界大戦後の国際秩序の中心である国際連合体制をないがしろにする行為である。

 第五に、ウクライナ侵攻は、平和の祭典・オリンピックおよびパラリンピックの精神を踏みにじる暴挙である。
 2021年12月2日の国際連合総会で決議された「オリンピック休戦決議」、すなわち2022年北京オリンピックの開幕日である2022年2月4日の7日前から、2022年パラリンピックの閉幕日である3月13日の7日後までは休戦とすることを内容とする決議にあきらかに反する。ロシアはこの決議の共同提案国に名を連ねており、またこの決議には193の国際連合加盟国の賛成があったことも、ここで強調する。

 以上のことから、わたしたちはロシアのウクライナへの軍事侵攻に対して強く抗議し、またロシアに対して以下のことを求める。

1.戦争を否定し平和的な国際秩序を維持することをめざす国際法秩序に、ロシアは復帰すること。

2.ウクライナへの軍事攻撃を停止すること。ロシア軍はただちにウクライナから撤退すること。

3.ウクライナの主権と領土を尊重すること。同国に対する不当な内政干渉を絶対におこなわないこと。
 
4.ウクライナ政府がおこなうチェルノブイリ原発施設の管理体制を妨げないこと。

5.2021年12月2日の国際連合総会におけるオリンピック休戦決議を遵守すること。

6.ロシア・ウクライナ両国間の紛争を平和的に解決するため、問題を国際連合安全保障理事会に付託すること。ロシアは安全保障理事会常任理事国として、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持」(日本国憲法前文)するようつとめるべきである。ロシアは拒否権を用いることによって、この解決を妨げないこと。



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