2021.12.18. 九条科学者の会 事務局長声明

2021年衆院総選挙の結果 及び 今後の9条運動の課題について


1.2021年11月1日に実施された衆院総選挙の最大の課題は、政権交代を実現させ、憲法破壊政治を、憲法を守り活かす立憲政治へと立ちかえらせることであった。この課題を実現するべく、市民と立憲野党とが連携を追求した。その結果、小選挙区選挙においては、立憲野党の統一候補を擁立することで議席を得たり、また議席獲得には至らなかったものの、与党候補者と接戦になったりした小選挙区が多数うまれた。このような成果があがったことじたい、立憲政治への立ちかえりのために、市民と野党が連携するという基本的方向性が正しいものであったことを示している。また憲法9条の平和主義の実現をもとめ、歴代政府のもとで続けられてきた憲法9条破壊に反対する世論の確かさを反映したものといえる。一部メディアや労組のなからは、「立憲野党の連携は誤りであった」という「総括」(?)も流されている。しかし、立憲市民を蚊帳の外においた「連携」の強要こそ、非民主的な談合政治というべきである。また立憲主義という目標をおろした「連携」の先にあるのは、改憲翼賛会へと堕落した国会であろう。

2.他方、このような市民と野党の連携が構築されることに対応するかたちで、改憲勢力の側からの反撃も強まった。そのため、立憲野党は議席を伸ばすことができなかった。自民は議席こそ減少させたが、なお単独過半数を維持している。また政権与党である公明、それに日本維新の会や国民民主党などの議席をあわせると、改憲勢力は(憲法96条で定めた改憲発議の要件である「総議員の三分の二」をうわまわり)、衆院全体の四分の三を占めることとなった。

3.政権交代が実現できなかったこと、そして改憲勢力全体としての伸長をゆるしてしまったこと、これらの背景には、いくつかの主体的な問題がある。とくに、立憲野党としての統一候補を確定する作業が遅れたこと、立憲野党として全国規模で議席を増やすための方針や運動が不徹底であったことなどであろう。また立憲野党は「野党共通政策」を作成した。しかし「憲法に基づく政治の回復」「科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化」「格差と貧困の是正」などを内容とする野党共通政策の存在は、国民のあいだに十分に知られないまま、総選挙投票日を迎えることになってしまった。そのため、立憲主義を守るという点で一致して形成された立憲野党の連携に、理不尽な論難や妨害がくわえられ、それに十分対抗することができなかった。
 
4.総選挙の結果をうけ、改憲勢力は、9条改憲の実現にむけた活発な活動を開始している。岸田首相は、憲法改正推進本部を憲法改正実現本部に看板替え(11月19日)、古屋圭司本部長に「名称だけではなく、体制も変えてしっかりやる気を示そう」と檄を飛ばしたと報じられている。また首相は、改憲にむけて、国会議論の活発化と国民の理解を深める必要性を訴えた(12月6日衆院における所信表明)。衆院総選挙後はじめて開催された12月16日の衆院・憲法審査会は自由討議であったが、自民のみならず維新・国民民主所属の委員からも、改憲の審議に着手することを求める発言が相次いだ。これまでの与野党一致に基づく審査会運営の原則をないがしろにした、強引かつ拙速な運営も危惧される。

5.改憲勢力の主張する改憲の内容は、日本国憲法の基本である平和主義のみならず、基本的人権の尊重や国民主権(民主主義)を根底から覆す危険があることを、ここであらためて確認したい。彼ら・彼女らは、いわゆる「台湾海峡危機」をことさらに誇張して伝えている。それを梃子(てこ)にして、日本国憲法に依拠した問題の平和的解決の努力をなおざりにし、もっぱら軍事力を使った対応を正当化する改憲をいそごうとする。しかし、9条改憲にもとづいて日本の軍事化を推進し、また日米軍事同盟を強化することによっては、東アジアの危機を解決することはできないだろう。それは、かえって軍事的紛争の危険性を高める要因となりかねない。2021年度補正予算(案)では、軍事費を増大させ(年度当初予算に比較して7千億円あまりの増額)、はじめて6兆円を突破した。さらに中期防衛計画の見直し作業を進めているが、そこでは30兆円の防衛費が計画されていると伝えられる。このことは、過去最大の軍事費を今後5年間にわたり継続して支出することを意味する。このように軍事に傾斜した国家財政は、わたしたちの生活を豊かにするどころか、貧困・格差をさらに助長するものとなるだろう。「(国政の)福利は国民がこれを享受する」(日本国憲法前文)と正反対の政治がおこなわれようとしているのである。

6.また改憲勢力は、新型コロナ禍を「利用」して、「パンテミックの対策のためには、憲法に緊急事態条項を置かなければならない」といった主張(緊急事態条項改憲論)を展開している。しかし新型コロナのようなパンデミックに効果的に対応するには、(憲法25条2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」のもとめるように)、国が平時から法律によって準備を重ねることこそが、必要かつ十分条件である。緊急事態条項を制定し、それによって内閣ににたいして法律にもとづかない政令制定権を付与したり、首相が地方自治体の長に指示をしたり、国会議員自身が国会議員選挙を延期することを許容するなどといった対応は、パンデミック対策としてまったく不必要である。それどころか、議会制民主主義や権力分立原理、そしてそれらにもとづく自由や権利を否定することにつながる。

7.そもそも、改憲国民投票法には、改憲国民投票運動におけるテレビ有料広告について規制がないこと、改憲成立に必要な最低投票数・得票率の定めがないこと、などといった数多くの致命的な欠陥がある。そのことは2020年に改憲国民投票法の改正を強行した国会自身が認識していることであり、各院が改正案の議決において、附則において示さざるをえなかったことである。にもかかわらず、そのような欠陥法の下で改憲作業をいそごうとする改憲勢力の態度は、きわめて不まじめなものといわざるをえない。

8.2022年夏には、参院通常選挙の実施が予定される。この選挙では、改憲勢力が推進する改憲策動にたいするはっきりとした拒否の声を、具体的に結実させる必要がある。わたしたち九条科学者の会は、「安倍改憲」および今後において具体化されるであろう諸「改憲構想」について、科学者の見地から、日本国憲法の基本原理と乖離を正確に認識し、その意味を多くの人々に伝えるという課題を負っている。