2020.12.5. 九条科学者の会 事務局長声明

拙速な「審議」によって憲法改正国民投票法の改正をはかり、ついで改憲に着手しようとする動きに抗議する


1.憲法改正国民投票法(以下、改憲国民投票法)は、テレビCMをつかった憲法改正国民運動(以下、国民投票運動)にたいしてメディアの自主規制があることを前提に制定された。しかしメディアの側に自主規制を行う意識のないことは、憲法審査会における議論であきらかになっている。したがって現状では、テレビCMをつかった国民投票運動には、量的制限がないことになる。しかしこのような「野放し」状況での国民投票運動は、資金力の差を直接反映したものとならざるをえない。また投票結果もそれによってゆがめられ、公正さを保てないおそれがつよい。

2.また改憲国民投票法には、憲法改正の成立に必要な最低投票率の定めがない。もし多くの国民が参加しないまま改憲がなされるようなことがあれば、憲法とそれにもとづく立憲政治から正当性は失われてしまうだろう。またそのような憲法改正は「憲法は公権力を制限するためのものであり、安易に改めてはならない」という硬性憲法のありかたにもそぐわない。

3.テレビCMにたいする規制と最低投票率の問題は、いずれも、2007年に改憲国民投票法が制定されたとき、参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会の付帯決議として「本法施行までに必要な検討を加えること」として具体的に指摘されたものである。しかし必要な手当てがほどこされず、今日にいたっている。
 
4.また改憲国民投票法には、公務員や教員の表現の規制につながる規定がおかれている。すなわち公務員については「その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない。」(103条1項)、また教員については「学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない。」(同条2項)とある。103条の文言はきわめてあいまいなので、自由にたいする恣意的な弾圧をまねいたり、表現活動を不当に委縮させたりするおそれがある。

5.さらに新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、社会的距離をおいた国民投票運動の形態、郵便投票・ネット投票をふくめた投票方法の導入など、公正かつ安全な憲法改正国民投票を実施するうえで、あらたに検討すべき課題も生じている。

6.これら諸点を慎重に審議したうえで改正することが、改憲国民投票法を運用するにあたっての最低条件である。しかし与党が国会に提案している憲法改正国民投票法改正案(以下、与党改正案)はそれらの点を無視し、近年の公職選挙法改正に平仄をあわせる、いわゆる「公選法並びの7項目」(洋上投票の拡大、期日前投票の弾力化など)に限られたものである。与党改正案は、改憲国民投票法の重大な欠陥にも、また新しい課題にも、まったく対応できていない。

7.にもかかわらず与党には、憲法審査会における審議を早急に打ち切って、与党改正案を成立させようという動きがある。そのような狙いをもった憲法審査会の運営は、与野党合意に基づく運営という、これまでの民主的慣行を覆すもので、容認しがたい。
 さらに一部野党議員のなかには、与党改正案の「公選法並びの7項目」改正を先行して成立させ、そののちに他の改正をすすめるという2段階改正論に立脚して、与党の動きを支持する議論もある。しかし「公選法並びの7項目」を先行させて成立させることに合理的理由はない。かりに「公選法並びの7項目」改正が実現しても、その後にCM規制をはじめとした問題がとりあげられ、法改正が実現する保障はない。

8.いま国民が国会に求めているのは、挫折した「安倍改憲」を生き返らせるための、憲法改正国民投票法の改正ではない。国民が求めるのは、新自由主義政治がもたらした貧困や、新型コロナウイルス感染の拡大から、人々の生活と命を守る政治である。また森友加計事件・「桜を見る会」問題・河井議員の汚職をはじめとした、安倍政権下での不正な政治・行政の真相を解明し、それを一掃することである。

 以上のことから、拙速な「審議」によって憲法改正国民投票法の改正をはかり、ついで憲法改悪に着手しようとする動きに抗議する。