2020.10.4. 「九条科学者の会」事務局長談話

菅内閣による日本学術会議会員の任命に対する不当な介入に強く抗議する


1.日本学術会議の会員について、日本学術会議から推薦された105名のうち、菅内閣は6名の任命を拒否した(20年9月末)。この拒否は、日本学術会議法のあやまった法解釈にもとづく行為である。またそれは、日本の学術と社会の進歩にとって大きな害悪をまねく。

2.今回の任命拒否は、日本学術会議法(以下、法)のあやまった法解釈にもとづく行為である。
 日本学術会議法は、会員の任命について、以下のように規定する。
 まず日本学術会議は「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考する。そして内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦する」(17条)。内閣総理大臣は、「推薦に基づいて会員を任命する」(7条二項)。
 内閣総理大臣の任命行為は、法によって厳格に規制されている。それは自由裁量ではなく、学術会議の推薦通りでなければならない。なぜなら、
 第一に、日本学術会議の会員たる資格は、「優れた研究又は業績がある科学者」(7条)である。それをもっとも適格に認定できるのは科学者コミュニティである。政治権力には、日本学術会議の行なった推薦を覆す能力がない。
 第二に、日本学術会議の職務について、法は「日本学術会議は、独立して左の職務を行う。」(3条)としていることである。じっさい、政府にたいして学術に関する勧告をおこなうなど、学術会議の設置目的に照らすなら、日本学術会議の高度の独立性が保障されるべきである。このような独立性を保障するうえで、人事における自律性はもっとも重要なものの一つであることはいうまでもない。
 第三に、現行法になって以来、日本学術会議の推薦どおりに任命が行なわれてきたという歴史的事実である。このような法の運用は、現行法制定時における政府関係者の国会答弁(参議院文教会員会1983年5月12日)でも確認できる。
 その唯一の例外は2016年、推薦された2名が任命されなかったということである。しかしこれはわずか一度のことである。任命拒否については、日本学術会議がそれを了承せず、欠員のまま推移したという経緯がある。したがってこの一回限りの事実をもって、法的意味を持つ先例となったとみなすことはできない。
 以上のことから、法上、内閣総理大臣は形式的な任命権を有するにすぎない。また日本学術会議から推薦された者すべてを任命すること、推薦されていない者を任命しないこと、という制約を受けているといえる。内閣総理大臣は、推薦された者についての学問的評価や過去の発言内容などにふみこんで判断をし、それらを理由に任命を拒否することはできないのである。
 内閣総理大臣が推薦された者の任命を拒否できるのは、推薦が所定の期限内に行われなかったり、被推薦者が法の定める再任制限規定(7条5号)に反するというような、きわめて例外的で形式的な違背ある場合に限られるというべきである。

3.今回の任命拒否は、科学者と社会に対してして、大きな害悪をまねくおそれがある。
 第一に、それは科学者の自由を委縮させ、権利を侵害する。
 (1)科学者は自己の学問的蓄積を活かしながら、日本学術会議の会員として活動をすることが期待されている。しかし内閣総理大臣によって任命が拒否されるおそれがあるなら、日常の自由な学問活動を委縮させることになりかねない。これは、「滝川事件」(1933年)や「天皇機関説事件」(1935年)のような、憲法に「学問の自由」の保障規定がなかった時代の自由弾圧すらほうふつとさせる。
(2)この任命拒否について、政府は理由をあきらかにせず、ただ拒否をしたという結果を公表・伝達したのみである。すなわち、不利益処分を受ける者(本件においては任目を拒否された六6名の科学者と、推薦を行った日本学術会議)に対する「告知(不利益処分があるということをあらかじめ本人に伝えること)と聴聞(本人に弁解を機会を与えること)」の機会を保障しないまま行われている。このことは、行政的続においても憲法31条の保障がおよぶことを認めた最高裁判決(1992年7月1日)に反するおそれがある。
 任命拒否の理由が本人にさえ明らかにされないことは、それが恣意的な理由に基づいて行なわれたのではないかということを推測させる。そのような疑いを払拭するためにも、内閣総理大臣は任命拒否の理由をただちに開示するべきであろう。
 第二に、それは社会全体が自由な学問から得る利益を損ない、社会の進歩にとっておおきな害悪となる。
 日本学術会議が、政府から独立(法3条)して活動することは、日本学術会議の答申・勧告などの質を高めるうえで必須の条件である。
 日本学術会議「戦争を目的とする科学研究には絶対従わない決意の表明(声明)」(1950年)」や同幹事会「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年)は、軍事研究を抑制するうえで重要な力となった。これは憲法9条の平和主義を活かしていくうえで、大きな意味をもっているのだ。
 もしこの独立性を否定するならば、日本学術会議の活動を弱めることになり、またそのことは、社会が得るべき利益を損なうのである。
 
4.以上のことより、菅内閣がおこなった日本学術会議の会員任命拒否にたいして強く抗議する。