発足14周年のつどい「天皇の代替わりと憲法」を開催


日時 2019年3月9日(土)14:00~17:00
会場 文京区民センター2A会議室
主催 九条科学者の会  後援 日本科学者会議

2019年3月9日(土)、「九条科学者の会発足14周年のつどい」が、「天皇の代替わりと憲法」をテーマに、文京区民センターで開催され、105人が集まりました。はじめに、司会の志田陽子共同代表が「憲法における象徴天皇制と国民主権の関係は重要な問題、今日のつどいに期待する」と開会挨拶しました。
 
河西秀哉さんの講演
 次いで、河西秀哉さん(名古屋大学・歴史学)が「メディアとともに歩んだ象徴天皇制」について、スライドを示しながら、以下のように講演しました。
 天皇制に興味を持つようになったのは、小学生の時、中日ドラゴンズが優勝したのに、天皇の病気による自粛で祝勝会が行われなかったのが残念だったからだ。憲法に象徴天皇制が入れられたのは、天皇の経緯を残したい日本側と「変化」を明記したいGHQが、名を取り、実を取り、文書の変化でアピールし、解釈の多様性を担保した結果だった。国事行為は戦争責任問題との関連性で限定され、公的行為によって天皇の権威が保たれるようになった。これが、天皇の言う「象徴的行為」で、近年増加傾向にある。
 前天皇は「人間天皇」をアピールしたが、戦争イメージを抜くことは難しかった。しかし、皇太子は「新生日本」との親和性があり、小泉信三による立憲君主制により、人気があった。特に、1958年の「ミッチー・ブーム」が週刊誌とテレビの普及によって、新憲法の理念と合致することで、拍車をかけた。しかし、長い皇太子時代には、頼りなさ、紋切型の対応などで、人気が次第に低下した。「象徴」としてのあり方を模索するなかで、福祉施設への訪問、沖縄への注目、「皇室外交」、戦争の記憶への取り組みを始めた。
 右肩上がりの昭和から格差社会の平成に入った天皇制は、国民統合の象徴を模索するなかで、共同体からこぼれ落ちそうな人びとを救い出すことが自分の役割とするようになった。それは、結果的には政治の不作為を覆い隠す機能を果たし、結果的に政権を支えることになっている。同時に、国民も天皇にそのような行為を求めるようになってきていることも問題だ。
 2016年の「おことば」では、象徴としての行為を減らすことができないので、代替わりする必要があると述べた。憲法にない天皇の行為が増えることは問題で、国民が天皇性について改めてよく考えることが大切ではないだろうか。

斉藤小百合さんの講演
 続いて、斉藤小百合さん(恵泉女学園大学・憲法学)は「天皇の代替わりと憲法」について、スライドを示しながら、次のように講演しました。
 立憲主義的憲法の正統な後継者たる日本国憲法の核心部分は、13条の「すべて個人として尊重される」という個人主義原理であり、「世襲」という原理に基づく天皇制は立憲主義的には取扱注意のtoなっている。4条には「国に関する機能を有しない」とあり、天皇制と個人の尊重は厳密には矛盾する存在なので、できるだけ「消極的」に解釈すべきである。
 象徴としての行為は、国事行為と私的行為の中間にあり、憲法的には根拠がない。宮内庁のホームページには、11のことが「ご公務」と一括りにされているが、憲法で定められたものと、私的行為がごちゃ混ぜにされていて問題である。会見や園遊会は私的行為で、宮中司祭が政教分離原則との関係で要注意である。憲法適合的な「象徴天皇制」に近づけるためには、できるだけ「消極的」もすべきだが、天皇が頑張って「象徴としての行為」を増やしてきた。どを指摘した。
 秋篠宮は「大嘗祭は公費ではなく内定費で賄うべき」と発言したが、内定費も公費(国民の税金)から出ている。高度に宗教的な儀式だが、2019年度予算案では144億円が計上(代替わり関連費用の総額は約166億円)している。
 憲法1条では、「天皇は日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」とある。天皇は統治権の総覧者たる地位を否定され、象徴に過ぎず、積極的・能動的な「象徴機能」が期待されているわけではない。大坂なおみ選手、小平奈緒選手の方が新たな「象徴」としてふさわしいかもしれない。
 より国民主権に適合的にするなら、天皇即位時の国民投票を導入したり、元号の「公募制」も検討すべきだ。
 皇室典範の改正ではなく「退位特例法」で処理したことは、女性天皇の制度化に入り込みたくなかったからだ。2012年自民党改憲素案では、天皇を元首化し、国旗・国家、元号を憲法化することで、「個人の尊重」という理念を放棄している。
 天皇代替わりにあたって、国民はもう一度しっかり天皇制と憲法について考える必要がある。

質疑応答と永山茂樹事務局長の訴え
 休憩の後、参加者から出された質問に2人の講師が答えました。河西さんは、「内奏」はこれまで隠されていたが、最近は公表されることが多く、国民が慣らされてきている。「皇室外交」では外国では天皇は元首として扱われ、改憲の先取りが行われている。外国の王室は絶えず批判されているが、日本のメディアは天皇への批判が少ない、などと答えました。
 斉藤さんは、イギリスの王室と日本の天皇家は似ているようでかなり違っている、皇室は戸籍もなく、基本的人権の侵害が常態化しているのは問題だと答えました。
 最後に、永山茂樹事務局長が、「安倍改憲を阻止するためには、4月の統一地方選、夏の参議院選がきわめて重要になっている。日本の将来を決める選挙になる。今日のつどいで勉強した成果を活かしてください」と訴えて閉会となりました。

 (後藤 仁敏・『日本科学者会議神奈川支部通信』(2019年4月1日発行)より転載)