シンポジウム「軍学共同を考える」を開催


日時 2016年3月19日(土)14:00~
会場 明治大学駿河台キャンパス リバティタワー9階1093番教室
主催 九条科学者の会/共催 明治大学教職員組合・安保法に反対するオール明治の会

2016年3月19日に、明治大学駿河台キャンパスにおいて、シンポジウム「軍学共同を考える」が開催されました。主催は九条科学者の会で、明治大学教職員組合と「安保法に反対するオール明治の会」が共催しました。約130名が参加しました。

 「九条科学者の会」共同代表の浦田一郎さん(明治大学教授)は、「軍事研究はしないという原則をもっている大学・研究機関は多い。これは、日本国憲法第九条の理念にのっとり、日本での軍事的研究を制限してきたという背景がある。ところが昨今、安倍政権が推し進めようとしている改憲の動きと、軍学共同の動きは重なるところが大きい。こうした事態に対し、研究者・学者は自分たちの足元から考える必要があろう」と冒頭のあいさつで述べました。

続いて、報告者4名からそれぞれのテーマに基づいた発言がありました。各報告は多様な観点から軍学共同にまつわる問題点を取り上げましたが、「軍民両用技術(デュアル・ユース)」「外部資金・研究資金の出所」「学術研究に対する政治的・経済的影響」といった問題について共通して言及しました。以下に、各報告者の発言の概要を記します。

■第一報告「急進展する軍学共同の現状」(浜田盛久さん:海洋研究開発機構)

「“デュアル・ユース”が政府のキャッチフレーズとなっており、研究者らにとっても、軍民両用技術の研究開発を肯定、あるいはその実施に対する後ろ目沙汰の解消を許す、聞こえのよい言葉として使われている」

「一方、軍学共同進展の背景要因として、大学予算(運営費交付金)の削減が関与している。特に、自然科学分野では3割から5割が外部資金であり、運営費交付金では研究はできない。したがって、学内においても、外部資金を獲得しなければいけないという雰囲気が強い。そこに防衛省の研究費が入り込もうとしている」

「軍関係の資金によって研究を行うことは、科学者が意図しようがしまいが、軍事研究に荷担することとなり、市民の信頼を低めてしまうだろう。また、技術の応用段階においては、研究成果の秘密保持が求められるはずであり、政府の関与が強まり大学の自治が脅かされる可能性がある。さらには、科学者が研究技術の秘密漏洩等で罪に問われる可能性も秘めており、研究現場の萎縮につながるだろう」

「今後の課題・提案としては、1. 大学の教授会等で軍事研究反対の声明を決議する、2. 大学予算の増額を正面から要求する、3. 研究開発された技術や知見が誤った使われ方をしそうな場合は反対する、ことが考えられる。」

■第二報告「軍学共同—新潟大や海外の事例から」(赤井純治さん:新潟大学名誉教授)

「社会の構造が変わることで、日本の社会も“死の商人国家”になりえる。特に、市民が軍需産業を容認するような社会が一番恐ろしい。政府は防衛省を中心に、“防衛のための技術開発”“敵国に勝るために一歩進んだ技術開発が必要”という名目で研究資金を出しているが、それは巧妙に軍事研究に誘い込むための言葉である。外部資金によって研究開発を行う場合には、どこがその資金を出しているのかを意識する必要がある」

「軍学共同が進むと産業界も参入し、大学は軍関係の研究費を用い、学生・院生をも巻き込んだ軍事研究を進めることになる。その意味では、学生らも軍事研究に対して意識的になることが重要である。例えば、イギリスでは学生向けの平和教育が実施され、学生が考え行動できる機会を提供している。ドイツにおいても、学生が中心となってINESInternational Network of Engineers and Scientists for Global Responsibility)の取組が実施されている。」

「問題への対応策としては、1. 学内で議論を尽くす、2. 勇気を出して発言する、3. 市民・学生と共に軍学共同の問題に取り組む(戦争法撤廃と同様に軍学共同阻止を求める)、4. かつて各大学が制定した平和宣言に類するものをもう一度行ってみる、などが考えられる。」

■第三報告「軍学共同を巡る政策動向—日本の学術研究体制の産業下請化・軍事化シフト」(井原聰さん:東北大学名誉教授)

「日本学術会議に変貌が見られる。アメリカの核戦略に取り込まれる危機に対して発せられた声明だった日本学術会議の54年の決議文が、現在では『当初からデュアル・ユースに着目していた』と読み替えられ、科学技術におけるデュアル・ユース論を肯定するようになった。また、日本学術会議による「科学者の行動規範—改訂版(20131月)」には、“政策立案・決定者との健全な関係の構築”“社会の安全”等の文言や、“できる限り”という曖昧な文言が多く用いられており、国家安全保障にからむ軍事関係の圧力の高まりを反映しており、政治からの学術界の独立性が失われつつある。」

「総合科学技術・イノベーション会議などは、“産業のための科学”になっており、大所高所からの議論はなく産業競争力強化を目的とした研究が推進。特に、官僚主導型の科学技術政策については、不透明な使途の資金がかなり多く配分されていることが予算編成を見ると分かる。」

「大学と軍関係とは、既に様々な形で関わりが進んでおり(防衛省技術研究等への外部評価者として大学人参与、防衛大学校の科研費獲得等)、切り分けることができない状態になっている。更に、教育に関しても資金が創設されており、更に問題を複雑にしている。」

■第四報告「軍産複合体と軍事技術開発について」(西川純子さん:獨協大学名誉教授)

「軍学共同といったとき、“軍”と“学”が同じ地平に並ぶことの意味は大きい。なぜなら、“学”の協力なしに、“軍”は成り立たなくなっているからだ。昨今の科学技術の高度な進歩の過程を見れば、自然科学者の力は強くなっているはずで、科学者が『NO』と言えば、兵器生産はできないはず。」

「開発段階から兵器開発に携わる企業=恒常的兵器産業・企業。恒常的兵器産業と研究所との融合をアイゼンハワー元米大統領は『軍産複合体』と呼び、『この企業の誕生は致し方のないことだが、これが強大にならないよう注意する必要がある』と発言。この後、さまざまな経緯を経て、現在の米国は、デュアル・ユースという言葉で、技術開発における軍事色を薄め、研究者を安心させ、プロジェクトの参加を促している。同様に、日本でもデュアル・ユースという言葉で科学者の抵抗感を弱め、軍学連携を進めようとしており、軍産複合体が目指されている。しかし、本当に怖いのは軍産複合体である。既に武器輸出三原則は撤廃されており、現在進められている憲法改正なども達成されれば、日本における軍産複合体の成立も現実味を帯びるだろう。」

「科学者はNOと言う。それが言える立場にいるはず。ただし、科学者の良心に訴え、それを強いるつもりはない。それだけでは、効果はない。科学者の良心に訴えるだけではなく、我々(市民・周囲の人間)も科学者と手を携えて環境を作る必要がある。科学者・研究者に“踏み絵”を踏ませるのではなく、政治でなんとかするべきであり、当面の課題は2016年夏の参議院選挙である。」