『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会
発 足 4 周 年 記 念 の 集 い ・ 報 告
会場にあふれる参加者403人・写真速報
日時 2009年3月8日(日) 13:00-17:00
会場 明治大学(駿河台) リバテイ-タワ1011教室(1階)
< 第1部 記 念 講 演 >
人類に役立つ科学の発展と平和の確立を願って
益 川 敏 英 さ ん(京都産業大学教授・物理学・2008年度ノーベル物理学賞受賞)
<第2部 報告と各分野の運動の交流 >
大学・研究所,県・地域,専門分野,若手のとりくみ
「九条科学者の会」は196人の呼びかけによって、2005年3月に設立され、科学に携わる方々に「九条の会」アピールへの賛同を訴える活動を続けてきました。2006年3月12日には1周年記念の集いを、2007年3月11日に2周年記念の集いと、毎年3月に総会を兼ねた集会を行ってきましたが、今年(2009年)もまた、3月8日、1年の運動をふり返るとともに、さらに運動を大きく発展させることを願って、「4周年記念の集い」を開催しました。会場は明治大学リバテイータワ1階1011教室、参加者は403人でした。
1.第1部 13:00〜14:45
第1部では、2008年度ノーベル物理学賞を受賞された益川敏英さん(京都産業大学教授、物理学)をお迎えし、「人類に役立つ科学の発展と平和の確立を願って」と題して、記念講演をしていただきました。益川先生は本会呼びかけ人のおひとりでもあります。記念講演に先立ってメゾソプラノ歌手陳曦さんにより「鳥の歌」ほかの歌唱が有泉芳史さんのチェロ伴奏で行われました。
以下、益川さんのお話の大要です
・戦争体験から
私は1940年生まれで、戦争体験がある。戦争当時、名古屋の自宅周辺が米軍の焼夷弾攻撃を受けて燃えた。自宅は不発弾で燃えなかったが、あの時燃えていたら、自分の人生も変わっていただろう。名古屋大学の先輩である沢田昭二さんが書かれた文章を読む機会があったが、広島におられて、お母さんは原爆投下のため家の下敷きになってしまわれた。その時、お母さんは、「自分はもう助からないから、おまえは早く逃げなさい」と言われて、沢田さんはその場を離れたと、淡々と記されている。(この文章を紹介した後、しばらく絶句)。自分は、子や孫にあんな思いをさせたくない。戦争体験をした人が高齢化し、だんだん語る人が少なくなっている。朝日新聞社のインタビューがあり、「本当に九条が危ないという状況になれば軸足を研究から運動の方に移す」と話したが、そうなったらもう遅いのだ。
・何故改憲しようとしているのか
改憲論を言う人は、「憲法の条文が不備だから」などと言っている。しかし、「不備」なのではなく、これまで「解釈改憲」をしてやってきたけど、それが限界に来ているから、改憲したいのではないか。自衛隊のソマリア派兵が問題になっているが、なぜ自衛隊が行かねばならないのか。海賊襲撃に対処するというが、襲撃を早く察知するシステムは出来ているはずだ。また、ソマリアの問題については、国際的な援助組織を作るべきだ。自衛隊を出すのは、別の意図があるのではないか。技術の発展によって、戦争はしやすくなる方向に向かっている。やはり、自由に兵器を使えるような状況にしたいのだろうが、それが国際協力の道とは思えない。
・九条の「国の交戦権否定」は重要
私は、国家が国家の名で始める戦争に反対である。米国のベトナム侵略戦争のような場合には抵抗するだろうが、国家の名で行う戦争には反対する。クラウゼヴィッツは「戦争は外交の延長」だと言うが、戦争は突然起きるのではなく、前兆がある。戦争の準備をするのではなく、戦争をしなくてもすむような国として努力すべきことは必ずあるはずだ。まして、起こりもしない戦争に向けて膨大な軍備を進めるのはおかしい。今の自衛隊はものすごい装備になっている。九条が国の「交戦権」を否定したことは重要である。九条のおかげで戦争が抑止されていると言える。戦争は外交によって阻止できる。国がそうした努力をしなければ、国民が運動して、そうした(平和)外交をすべきだ。九条の会の人たちは、皆「副業」で、「できればやりたくない」と思いながらやっているだろうが(笑い)、それだけ緊張が高まっているということだろう。憲法は、戦争は起こさないという実に立派な宣言で、そうした立場で国際協力を発展させることが必要である。
2.第2部 15:00〜17:00
休憩のあとの第2部では、事務局から片平代表の挨拶と情勢報告、平野事務局長から2008年度活動経過と2009年度活動方針の提案が行われ、続いて、大学・学生等の「九条の会」の活動報告、各地の取り組みの紹介、運動の進め方についての提言・討論が行われました。最後に集会アピール案が提案され、若干の文の調整を事務局に委任して採択されました。以下、参加者からの報告・発言を紹介します。
2007年12月に学生に呼びかけて9条の会を結成した大東文化大の院生より、活動上工夫している点として、@がんばらない(無理しないで楽しく!愉しく!)、Aえらくない(特別なことじゃない、誰にでもできること)、Bあきらめない(微力だけと無力じゃない)という3つの「ない」をモットーにしていることが報告された。教員、院生、職員33名の呼びかけで2005年2月に発足した大阪市立大九条の会から、日ごろ顔を合わす機会のない教職員と院生が和気藹々と交流を深め、会の存在が学内民主主義を発展させる力になっていることが語られた。岐阜大の九条の会から、今年は活動経験交流資料集に文書が間に合わなかったが、来年は是非誌上面でも参加したいとの意思表明がなされた。山形大学九条の会からは、桜のきれいな写真のクリアリーフに6ヶ国語に翻訳された九条の条文を載せて普及活動を行っていることが紹介された。5名が登壇した早稲田9条の会‘Article9’からは、昨年早稲田の学生に平和について自由に表現してもらい、それをスライドにして第2回Peace Night 9で紹介したこと、今年もより大きな規模で成功させたいので、是非集会に若い人たちを連れてきてもらいたいとの決意と要望が示された。
若い人たちに続いて、2005年の設立時より毎回参加されている大分九条の会の方より、大分マスコミの会の紹介と、過疎の地域で九条の会が医者不足などの問題も取り上げて活動していくことの重要性などが発言された。初めて国民投票法が問題になった1952年に東京大学に入学された個人参加の方から、平和憲法を守れと当時学生として農村への帰郷運動に参加した思い出と、憲法九条の2項こそが戦争勢力にとって邪魔者になっている現実が語られた。昨年宇宙基本法制定反対の運動に取り組んできた参加者より、日本の宇宙開発がアメリカのミサイル防衛計画と密接に関連付けられており、そのための早期警戒衛星作りに取り込まれる可能性が指摘された。長年被爆者運動に尽力されてきた参加者から、戦後核兵器をなくそうと立ち上がった市民運動が、九条の改悪を狙っていた支配層に解釈改憲の道を選ばせるに至った歴史的経緯が語られ、核兵器をなくすことを公約に掲げるオバマ大統領の出現は核兵器廃絶の運動を発展させるチャンスであるとの指摘がなされた。
続いて九条科学者の会の運動のあり方について、二人から発言がなされた。最初の方からは、昨年の集会では、各地の九条の会の独自の取り組みと会の本来の目的である九条の会への賛同署名を増やすことをいかに関連付けるかをめぐってホットな議論を行なわれた。最終的に世論の過半数を改憲反対の側が獲得することが求められている以上、我々としても賛同署名を増やすことを基本にすえておくべきではないかとの意見表明がなされた。二人目の方からは、戦争反対という国際的な機運を追い風にして、世界中に九条を広める意識的努力を行う重要性と、自衛隊の存在そのものが違憲であることを根本的に訴えていく必要性が語られた。最後に、昨年11月に発足したばかりの青山大学の九条の会の学生から、軍隊を持たない、すなわち軍事費を不要とするような社会が以下に豊かな社会であるかという問題意識を持って、運動に取り組んでいることが紹介された。
<2008年度・賛同署名>
2008年1月1日から12月31日までに寄せられた賛同署名数は228人で、賛同署名の総計3097人になりました。3000人は超えましたが、目標とする1万人にはまだ遠い状況です。下に2008.12.31時点の都道府県別賛同者数を示します。全ての都道府県で人口1万人にひとりの賛同者が得られれば1万人達成は可能です。引き続き賛同署名の拡大に取り組んで行きます。ご協力をお願いいたします。
賛同者数 (2008.12.31) 3097名
北海道 172 青森 23 岩手 26 宮城 88 秋田 13
山形 34 福島 15 茨城 81 栃木 38 群馬 36
埼玉 160 千葉 104 東京 851 神奈川 231 新潟 31
山梨 16 長野 43 富山 16 石川 19 福井 11
岐阜 28 静岡 42 愛知 139 三重 20 滋賀 59
京都 205 大阪 125 兵庫 88 奈良 22 和歌山 6
鳥取 7 島根 6 岡山 34 広島 27 山口 20
徳島 19 香川 8 愛媛 10 高知 9 福岡 103
佐賀 17 長崎 11 熊本 14 大分 13 宮崎 11
鹿児島 18 沖縄 24 外国 4 不明 合計 3097
<活動経験交流資料集について>
集会にあわせて、今年も全国の大学人・研究者などによる九条の会活動の「活動経験交流資料集(80ページ)を作成しました。
内容は昨年の28団体から10団体増えて下記の38団体になりました。さらに新しい情報を加え、資料集を充実させていきたいと考えています。
掲載団体;
札幌学院大学「九条の会」/九条の会・室蘭工大/弘前大学九条の会/獨協学園九条の会/首都大・都立大教職員9条の会/早稲田から広げる9条の会/東京外語大・九条の会/東洋大学九条の会/立教九条の会/中央大学教員9条の会/日本大学九条の会/大東文化9条の会/中央大学9条の会/早大9条の会“article9”/九条の会・東大/KHC(慶應義塾大学)9条の会/和光大生・九条の会/東京農工大学九条の会準備会/法政大学9条の会/福井大学9条の会/ 愛知大学9条の会/憲法「九条の会」アピール賛同を進める名古屋大学有志の会/龍谷大学9条の会/阪大・9条の会/大阪市大 九条の会/神戸大学教職員・旧教職員9条の会/島根大学9条の会/山口大学関係者有志九条の会/大学人・北海道九条の会/宮城・研究者「九条の会」/筑波研究学園都市研究所・大学関係9条の会/大学九条の会・東京連絡会/東京学生九条の会”Peace Night 9”/東京院生九条の会/九条科学者の会かながわ/「九条の会」愛知・大学人の会/大学人九条の会沖縄/九条科学者の会/
<九条科学者の会・2009年度活動方針>
1 目標1万名を目指し、創意工夫して賛同署名に取り組みます。
賛同署名は本会の出発点であると同時に、「九条を守れ」の声が科学者・研究者の分野でのどこまで広がっているのか、その到達点を一目で表す指標ともなりうるものです。現在の停滞状況に甘んじず、なんとかして再び勢いを取り戻すよう創意工夫をして署名運動に取り組みます。
2 「7つの行動提起」に沿って研究者らしい幅広い運動を広げます。
「九条を守れ」の声を科学者・研究者の分野で広げるために、ひとりひとりが自分のいる職場・地域などで「7つの行動提起」(下記※を参照)に沿った研究者らしい運動を広げます。
3 いろいろなレベルで連絡会・連絡網体制をつくり相互の協力関係を築きます。
それぞれの職場・地域などでの活動が活力を保ち、増殖していくために、都道府県・地域・全国など様々なレベルで連絡会・連絡網体制をつくって経験交流、相互協力、共同企画などを進めていきます。事務局としても活発に活動している全国各地の会がお互いに直接連絡がとれるよう、全国的連絡網づくりに積極的な役割を果たします。
4 研究者の幅広い結集のために学問分野ごとの運動にも取り組みます。
学問分野ごとのつながりは研究者固有の領域です。ここで運動を広げることには独特の難しさがありますが、九条を守る運動に科学者・研究者として関わる意味に立ち返るなら、また研究者の中に本当に幅広い運動を広げるためには、やはりこのつながりの中でどのように運動を進めるかを避けて通ることはできません。そのための新しい一歩を丁寧さや工夫をもって進めていきます。
5 九条を守るために取り組まれている様々な企画・活動に協力します。
他分野の九条の会の活動、九条の会以外の活動にも、「九条を守れ」の一点で一致し協力していきます。
6 改憲発議が可能となる2010年5月に向けて、わたしたち科学者・研究者の九条への思いを国民に発信するために、創意ある取り組みを行います。
※ 7つの行動提起 (2006.3.12「発足1周年記念の集い」で採択)
1.日本国憲法の改悪を阻止し、平和と民主主義を確立するため、科学者・研究者が旗幟を鮮明にして、良心を社会に示し、平和と民主主義を守る国民運動を強めていきましょう。
2.「九条の会アピールへの賛同署名」をさらに大きく広げていきましょう。自分が所属する大学・研究所や、専門分野の友人・知人に賛同を働きかけましょう。
3.諸団体が主催する講演会、シンポジウム等にも積極的に参加していきましょう。さまざまな分野の知識人・文化人・芸術家・宗教者などとの連帯活動を深めていきましょう。
4.個人で出来る活動に創意を発揮し、人々の目に見える活動をしましょう。例えば、友人への手紙、憲法グッズ普及、車等へのステッカー張り、自宅・居住地での九条ポスター張りなど、さまざまな活動があります。「地域九条の会」等での講師などにも積極的に名乗り出ていきましょう。
5.賛同署名運動を契機に、各大学・研究所・地域毎に、多様な形態で「九条の会」を作りましょう。宣伝・組織活動を強めましょう。「九条科学者の会」のホームページを活用し、運動の経験交流を全国規模で深めていきましょう。
6.科学者・研究者にふさわしい理論・実践活動を展開し、その成果を多くの人に知らせましょう。
7.次の世代を創る主体は若者です。院生・学生への働きかけや、若者達の自主活動を積極的に支援しましょう。若者の新鮮な感性、エネルギーを運動に取り入れ、運動に新しい風を吹かせましょう。
<集会アピール> ソマリア沖海賊対策を口実にした自衛隊の派兵に反対するアピール
麻生内閣は、2009年1月28日、ソマリア沖での海賊対策を口実にして、海上自衛隊を海上警備行動(自衛隊法82条)として派遣することを決定した。また、与党の自民党・公明党は、外国船舶の護衛や武器使用の拡大を狙って新たな法律を準備しており、3月中にも法案を提出すると報道されている。
日本国憲法は、アジア・太平洋地域の多くの人々を苦しめ、また数多くの日本船舶を動員してこれを失った戦争の反省の上に立ち、戦争の放棄と非武装の恒久平和主義に立脚し、紛争の平和的解決を目指している。それゆえ、たとえ日本船舶や日本向け物資を輸送している船舶が海賊に襲撃されるような場合であっても、軍事力によって海賊を制圧することは、日本国憲法がほんらい想定していないものである。
そもそも、ソマリア沖で海賊が活動するようになったのは、1991年にソマリアの中央政府が崩壊して以来、政治的・経済的混乱から漁民が経済的に困窮したこと等に起因するといわれている。従って海賊問題の真の解決のためには、ソマリアに秩序を回復するとともに、内戦で疲弊したソマリアの経済的な復興支援こそが求められる。また当面の対策としても、警備と称して大型の軍艦を派遣するよりも、ソマリア周辺国の地域協力による海賊対策のための警備能力向上のための海上保安庁などによる技術的支援、あるいは国としての財政的支援こそが有効かつ適切である。
自衛隊法82条は、「海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合」に、自衛隊が「海上警備行動」をなしうるものとしているが、これはもともと日本の沿岸での活動を想定したものである。そうした現行規定を濫用して自衛隊の艦船をまず派遣し、その後に新法を制定して、外国船舶の護衛や武器の使用を正当防衛や緊急避難の場合以外にも拡大することが狙われている。また、対潜哨戒機の派遣も検討されているという。こうした動きは、自衛隊の海外での武力行使に道を開くものであり、この間画策されてきた自衛隊派兵恒久法の制定、ひいては集団的自衛権の行使や憲法9条の改悪に道すじをつけようとするものである。
私たちは、憲法9条を擁護する立場から、このような憲法9条を蹂躙する動きにたいして憂慮の念をもつとともに、海賊対策を自衛隊海外派兵の一歩とする動きに強く反対することを表明する。
2009年3月8日
『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会・発足4周年記念の集い