3・12集会 事務局長挨拶
九条科学者の会事務局長 片平洌彦
世界各地における第2次世界大戦の惨禍とヒロシマ・ナガサキの廃墟を通じて沸き起こった「ノーモアヒロシマ、ノーモアナガサキ、ノーモア戦争!」の声の中から生まれでた「日本国憲法」は、来る11月3日に公布して60年を迎えます。人間の歳では、「還暦」です。そうした「長寿」を祝福すべき時に、この平和憲法を改悪しようとする動きが、政権与党などによって一歩また一歩と進められています。
ご承知のように、自民党は、昨年10月に九条2項を変えて「自衛軍保持」を明記し、集団的「自衛」権を容認するなどの「新憲法草案」を決定し、これを11月の党大会で承認しました。こうした憲法になれば、「自衛軍」は大手を振って、米軍などと共に海外での戦争に「自衛」の名のもとに参加できることになります。そして、戦死者が出た場合は、靖国神社に「英霊」として祀られ、首相らが「社会的儀礼の範囲」であるとして、これも大手を振って参拝することになります。たとえ「自衛軍」に無関係の国民でも、日本国内で「報復テロ」に遭遇する危険が高まります。というのは、日本の「自衛軍」が海外で戦争に参加し、外国の人々を殺傷すれば、米国・英国などと同様に、日本はまさに「報復テロ」の対象国になるからです。
今、私たちは、こうした道を選択するのか否かの重大な岐路に立っています。すなわち、この日本を、米英のように外国人と「殺しあい」をする危険な国にするのか、それとも、紛争はあくまで外交的な「話しあい」で解決する平和な国にしていくのかが問われているのです。
2004年6月に大江健三郎氏などが「九条の会」のアピールを出されたのに応えて、私たちは2005年3月に「九条科学者の会」を作って、196人の発起人と119人の参加を得て「発足記念の集い」を行いました。以後、署名・カンパを集め、HPを開設し、新聞への意見広告への賛同や、各地科学者の会との連絡、「有明講演会」を初めとする九条の会の諸活動への協力などを行ってきました。そして、早くも1周年を迎えることとなり、本日の集会開催に至りました。
賛同署名は、当初は、メールでの署名により短時間でたくさん集まるのではないかと想定していました。しかし、「個人情報保護法」が成立し、お名前の公表に慎重さが要求されること、また、メールでは本人確認が難しいことなどから、メール中心ではなく、発起人、呼びかけ人、そして賛同人の方々に依頼先を紹介していただく方式を中心とするようにしてきました。その結果、署名は今年1月に1,500人を超え、2月末までに1,575人になりました。皆様のご協力を心から感謝申し上げます。また、皆様に多額のカンパをお寄せいただきました。このカンパは、パソコン・プリンターの購入とその維持経費、賛同署名を訴えるための印刷代・封筒代や郵送料、その作業のためのアルバイト代、前述のような新聞への意見広告への賛同金などに使ってきました。会を支える財政についても、皆様のご協力に心から感謝申し上げます。
さて、署名は、1,600人近くに達したとはいえ、当初の目標である「当面1万名」からすれば、まだまだ「道は険しく、遠い」感を禁じ得ません。頼りになるのは皆様の絶大なるご協力ですので、いっそうのご協力をお願い致します。
現在の通常国会では、「国民投票法案」が上程の機会を覗っています。この法案は、資料に載せておきましたが、マスコミの規制や公務員・教育者の「地位利用による国民投票運動の禁止」を盛り込むなど、大変危険な内容です。「手続きを決めるだけなら良いではないか」との声が一部にあると聞いていますが、「今この時期に、何故」と考えれば、その意図は明々白々です。明らかに、「憲法改悪」のために、その手続き法を成立させようとしているのです。私たちは、こうした法案に早期に反対の意志表示をしておく必要があると考え、事務局で検討し、2月20日付けで「事務局長談話」を出しました。
この談話はマスコミ等に送るとともに、HPにもアップしました。何卒ご了承のほどお願い申し上げます。
なおまた、専修大学名誉教授の隅野隆徳先生にお願いして、国民投票法案に関する論文をご執筆いただき、これをHPに掲載予定です。皆様には、是非HPをご覧いただきたいと思います。
ご承知のように、韓国の盧武鉉大統領は、日本の植民地支配からの独立運動である「3・1運動」87周年の記念式典で演説し、日本の憲法改悪の動きを批判しました。「日本は既に謝罪をした。我々は繰り返し謝罪を要求していない。謝罪に合った実践を要求している。謝罪の裏返しとなる行動に反対している。」「日本が『普通の国』になることを『世界の指導的な国家』になることとするならば、法を変えて軍備を強化することではない。人類の良心と道理に合った行動をして、国際社会の信頼を確保しなければいけない。」
この演説に対し、小泉首相は「憲法は、その国自身で考えること」と不快感を示し、安部官房長官は「(憲法の平和主義の)基本方針を根本から覆すような議論は全くされていない」として「大統領の指摘は当っていない」と反論し、さらに自民党憲法調査会の保岡興治顧問も「(改憲は)日本の新しい姿・形に理想を求めていくことだ」と述べたと報道(読売新聞3月2日)されています。しかし、それならば、九条2項を変えて、自衛軍を保持し、集団的自衛権を容認し、海外で武力行使をしようとしているのは何故か? そうした国にすることが、「理想」なのか? そうした改憲を急ぐため、国民投票法案を提出しようとしているのは何故か? 政府・与党幹部は、これらの疑問に対し明確に説明して欲しいと思います。盧武鉉大統領はまた、「我々は日本の国民の良心と歴史の大義を信じ、粘り強く説得、要求していく」とも述べています。私たちは、日本の主権者・科学者として、こうした声に応え、「日本国民の良心」を示そうではありませんか。
今、九条改悪を中心とする憲法改悪反対の運動は正念場を迎えています。毎日新聞社の2月のRDDを用いた全国世論調査によると、改憲賛成は過去最高の65%とのことで、これが見出しになっています。しかし、九条については、「1・2項とも改めるべきでない」が41%と最多で、「2項だけ改めるべき」は21%、「1・2項とも改めるべき」20%などとなっています。また、自民党新憲法草案のように「自衛軍」創設が「適切」と答えたのはわずか17%です。このように、国民は、決して、全体として憲法改悪に賛成しているわけではありません。しかし、油断をしていると、改憲のキャンペーンに押し流されてしまいます。今こそ、私たち一人一人の主体的な・科学者らしい創意工夫ある活動を、ともに考え、ともに行動していきましょう。この厳しい闘いに勝利したら、日本の明るい未来が開けると言われています。日本国憲法を世界に輝かせるために!私たちの活動は、世界から注視されています。ともに頑張りましょう。
2006年3月12日
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